光源氏への想いを断ち切れない六条御息所は、生霊となって懐妊した正妻、葵上に襲いかかる。
誰もが憧れる才色兼備の貴女。故皇太子妃である彼女の心を奪った源氏。
若さのままに醒めてゆく男の熱を感じながら自尊心が心の闇を封印した。
重く暗く蟠る嫉妬、憎悪、自己嫌悪。
葵祭の護衛に選ばれた源氏の晴れ姿を、それでも一目見たいと出向く女心。
質素ながら品良く設えた牛車は、葵上の豪奢な車に押し退けられ、身動きもとれぬ無惨な有様。車の中で心の闇は益々どす黒く重く渦巻いた。
破れ車で燃え盛る火宅を脱出することなどできぬ。
己も自覚せぬままに宙を飛び葵上を打ちすえる。
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