深く愛し背負って逃げたその女は、手の届かぬ人となった。
皇太子妃となった藤原高子の、京都の氏神大原野神社への行幸に供奉した業平。
満開の山桜に薄霞む小塩山。それは遠い、もう二度と戻らない切ない恋の想い出のようで。車の中のそのひとも、同じ気持ちでいてくれるのだろうか。
大原や小塩の山も今日こそは神代のことも思い出づらめ・・・
この行幸を、神も守って下さるようにとの和歌に、二人の想い出を込めて捧げる。
若かりし業平が桜で飾った車に乗り現れる華やかな後シテ。しかし何故か脳裏に浮かぶのは遠い眼をした前シテの翁だ。
花だけがいつまでも、その恋を覚えている。
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